好きな財布を、使いやすくするための、後付けコインレールを作りました

いろいろな財布に後から取り付けられるコインレールを、試作を重ねながら作った記録です。

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皆さんは、財布の中の小銭をどうやって見分け、取り出していますか?

最近、いろいろな財布に後から取り付けられるコインレールを作りました。

きっかけは、「視覚障害者にも使いやすく、おしゃれな財布を作りたい」というプロジェクトに、私が途中から少し関わり、意見をお伝えする機会があったことです。このプロジェクトは、コインレールのついた財布を愛用している方の「もっとおしゃれなものを選びたい」という声から始まったものだと聞いています。そこで、新しい財布そのものを開発する企画が進められていました。

実は私自身、それまでコインレールをほとんど触ったことがなく、コインレールのついた財布があることすら、よく知りませんでした。ところが、実際に手に取ってみると、これが意外と使いやすい。小銭を決まった位置に収めておけるため、種類を確かめて、必要なものを取り出しやすくなります。

そこで私は、少し別の可能性を考えました。専用の財布を一つ増やすのではなく、世の中に数え切れないほどある財布に、コインレールだけを後から取り付けられたらどうだろう。「使いやすい財布の中から選ぶ」のではなく、「好きな財布を使いやすくする」ことができれば、財布選びの自由は一気に広がります。

さらに、これはコインレールをすでに使っている人だけのものではありません。小銭の種類を見分けたり、必要な硬貨を取り出したりすることに少し手間を感じている人にも、知ってもらえたら役立つかもしれない。実際に使ってみたからこそ、そう思うようになりました。

この案は、財布そのものの開発を主眼とするプロジェクトとは方向が異なり、そこでの採用には至りませんでした。ただ、それなら個人的に作ってみよう。せっかくなら実際に形にし、ほかの人にも触ってもらって、どんな人に、どのように役立つのかを確かめてみたい。

そんな経緯から生まれたのが、今回紹介するコインレールです。

小銭入れの「仕切り」に目をつけた

財布の小銭入れにはさまざまな形がありますが、もっともよく見かけるのは、マチが蛇腹のように広がり、中央の仕切りで二つの部屋に分かれているタイプです。

財布の大きさや、ファスナーやがま口といった閉じ方は、製品ごとに異なります。一方、中央に仕切りがある構造は、多くの財布に共通しているように見えました。そこで、この仕切りを利用すれば、さまざまな財布にコインレールを取り付けられるのではないかと考え、構造の検討を始めました。

いろいろな財布を見ていくうちに、もう一つ気づいたことがありました。視覚障害者向けの財布の中には、コインレールが小銭入れとは独立した位置に取り付けられているものがあります。確かに硬貨は出し入れしやすい一方で、レールから外れた硬貨を、そのまま落としてしまう可能性もありそうです。

それなら、コインレールを小銭入れの中に収めればいい。硬貨がレールから外れても、小銭入れが受け止めてくれます。この形なら、多くの財布に共通する仕切りを利用しながら、硬貨を落とす可能性も減らせると考えました。こうして、小銭入れの中央の仕切りに取り付けるという方向性が見えてきました。

最初の試作は「回転式」

完成した構造を紹介する前に、一度試作したものの、採用を見送った案についても触れておきます。

最初に考えたのは、扇形のプレートを回転させる構造でした。厚みのあるプレートの外周には、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉の4種類をはめ込む枠を設けます。1円玉と5円玉は、この試作では対象にしませんでした。扇の要にあたる部分は、小銭入れの中央の仕切りの上部に、回転軸で接続しました。

使わないときは、プレートが下を向き、小銭入れの中に垂れ下がるように収まります。使うときだけ親指で押し上げると、軸を中心にプレートがくるりと回り、硬貨を並べた外周部分が小銭入れの上へ現れる。そこから必要な硬貨を取り出す仕組みです。

回転機構自体は、思っていた以上にうまく動きました。くるりと回る動きも小気味よく、ギミックとしては悪くありません。

ただ、実際に財布へ入れてみると、いくつか問題がありました。まず、扇形のプレートが想像以上に大きく、小銭入れの中でかなり場所を取ります。また、硬貨をパチッとはめ込もうとするとプレートまで動いてしまい、力を加えにくい。動きの軽快さが、硬貨を収納するときには、かえって扱いづらさにつながっていました。

さらに、使うときにはプレートが小銭入れの上へ飛び出します。これでは、硬貨が外れても小銭入れで受け止めるという、もともとの狙いを十分に生かせません。

動かして楽しい構造にはなりましたが、日常的に使うコインレールとしては、どうも微妙です。そこで、この回転式は採用せず、もっと単純で安定した構造へ考え直すことにしました。

完成形は「背中合わせ」

回転式を見送ったあと、改めて一般的なコインレールの形を参考にすることにしました。よく見かけるのは、1本のレールに同じ金種の硬貨を数枚収め、そのレールを4本並べたものです。これで4種類の硬貨を分けて収納できます。薄くまとまり、長く使われてきた定番だけあって、基本構造としてはよくできています。

では、この形を普通の小銭入れに収めると、何が問題になるのか。最初にぶつかったのが横幅でした。4本のレールをそのまま横に並べると、小銭入れの幅いっぱいになり、財布によってはそもそも収まりません。

そこで、4本のレールを2本ずつに分け、中央の仕切りを挟んで背中合わせに配置することにしました。本体をクリップのように仕切りへ取り付けると、その両側に2本ずつのレールが並びます。これなら横幅を抑えながら、4種類の硬貨を分けて収納できます。

金種を固定しない3本のレール

寸法を検討する中で気づいたのが、500円玉だけはひと回り大きいものの、それ以外の硬貨は比較的近い大きさにまとまっていることでした。

一般的なコインレールでは、10円用、50円用、100円用、500円用と、それぞれ異なる寸法のレールが用意されています。そのため、どの位置がどの金種に対応するのかを覚え、それぞれ決められた位置に収納する必要があります。これは少し不自由に感じました。

そこで、500円玉を入れる1本だけを専用設計とし、残りの3本は、500円玉以外ならどの硬貨でも収納できる共通設計にしました。適切な寸法を見つけるまで何度も試作を重ね、1円玉や5円玉でも収納できることを確認しています。

4本のうち3本は、どのレールを何円用にするのか、使う人が自由に決められます。10円玉と100円玉を入れる位置を入れ替えることもできます。使い方によっては、一つのレールに異なる金種を入れることも可能です。

500円玉専用のレールが1本と、金種を自由に選べるレールが3本。使い方を製品側で固定せず、自分に合った並べ方を選べることも、今回の大きな特徴です。

触って分かるための仕上げ

基本構造が決まったあと、最後に整えたのが、触ったときの分かりやすさと、財布の中で安定して使うための形です。

4本のレールは、仕切りの両側に2本ずつ配置しています。ただし、500円玉用のレールだけは、硬貨の大きさに合わせて幅を広くしています。この違いを、そのまま触覚的な目印として利用しました。

本体の一方の端では、仕切りの両側にあるレールの端がそろっています。もう一方の端では、500円玉用のレールだけが広いため、その部分に段差ができます。本体の両端を触り比べれば、この段差を手がかりに、500円玉用のレールの位置を判断できます。

仕切りから簡単に外れないよう、クリップの内側には、滑り止めとなる細かな凹凸も設けました。また、硬貨を保持するストッパーは、指に触れても痛くならないよう、角や先端に丸みを持たせています。

3Dプリンターで成立させるための工夫

今回のコインレールは、私が3次元CADを使って設計し、試作から完成品まで、すべて3Dプリンターで製作しています。3Dプリンターは樹脂を少しずつ積み重ねて形を作るため、金属加工とは異なる、積層造形ならではの制約があります。

金属製の既存品と同じ形状や寸法を、そのまま樹脂で再現しても、同じようには機能しません。もっとも苦労したのは、硬貨を縦一列に保持する基本構造を残しながら、同等の機能を樹脂で実現することでした。

今回使用した樹脂では、金属製のものと同じ形状のまま必要な強度を確保することが難しく、単純に補おうとすれば厚みが必要になります。しかし、今回は小銭入れの中に収めるものです。厚く大きくしてしまっては、この構造を選んだ意味がありません。

そこで、硬貨を保持する部分やストッパーの形、樹脂のしなり方、積層する向きなどを何度も調整しました。硬貨を確実に保持しながら、必要なときには無理なく取り出せること。そして、できる限り薄く仕上げること。この二つの両立を目指しました。

ここは、機械工学を学び、設計に携わってきた技術者として、どうしても妥協したくない部分でした。何十回も造形をやり直した結果、採用しなかった試作品だけで、大きめのどんぶりがいっぱいになるほどの量になりました。

試行錯誤の末、レール部分は、参考にした金属製のものとほぼ同等の寸法に収めることができました。こうして、現在の形が完成しました。

実際には、ここまで紹介しきれなかった工夫が、ほかにもたくさん詰まっています。ただ、すべて説明し始めると、この話だけで記事が何本も書けてしまいそうなので、設計の話はひとまずこのあたりにしておきます。

作って、使って、感じたこと

完成したコインレールは、思っていた以上にコンパクトに仕上がりました。小銭入れの仕切りに取り付けても財布はほとんど膨らまず、厚みがほぼ変わらないほど薄く収まります。小銭を整理して持ち歩く道具としても、かなり便利なものになりました。

実際に、ラーメン店の券売機など、現金が必要な場面で使ってみました。硬貨を一枚ずつ目で確認しなくても、必要な金種をすぐに取り出せます。硬貨の出し入れで指が痛くなることもなく、実用品としてかなり使いやすいものになったと感じています。

同時に、ものづくりは決して一筋縄ではいかないという、当たり前のことも改めて実感しました。「こうだったら便利なのに」と思いつくことと、それを実際に機能する形へ仕上げることの間には、数え切れないほどの試行錯誤があります。

コインレールのように、すでに長く使われてきた一見単純な道具でさえ、新しく設計し直すとなれば、これだけの試行錯誤が必要です。

私たちの身の回りには数え切れないほどの工業製品があり、普段はその背景をあまり意識せずに使っています。しかし、その一つ一つの裏側には、多くの技術者の工夫や思い、失敗と試行錯誤が詰まっています。それらが凝縮され、ようやく当たり前に使える形になって、私たちの手元へ届いています。

今回、自分でものを作ったことで、普段使っている製品の背景にある苦労や、ものづくりそのものの尊さを、改めて感じました。このブログでは、完成したものだけでなく、その裏側にある面白さや難しさについても、楽しみながら発信していきたいと思います。

今後について

販売を含めた今後の展開については、まだ決まっていません。むしろ今は、これからどうするのがよいのか、皆さんの意見を聞きたい段階です。

もともと、販売を目的に作り始めたものではありません。思いついた構造が本当に成立するのか、実際に作って確かめてみたい。その気持ちから始めたものです。

次に知りたいのは、ほかの人が実際に触ったときにどう感じるのか、本当に使いやすいのか、使ってみたいと思えるものになっているのかということです。

今後、私が参加するイベントや集会には、できるだけ持っていこうと思っています。直接お会いする機会のある方は、ぜひ声をかけてください。その場で実物に触れ、試していただけるようにしたいと思います。

また、興味を持った方や使ってみたい方、ご意見のある方は、ぜひメール(kwsmrd@gmail.com)でお知らせください。個別に返信できないこともあるかもしれませんが、いただいた内容には必ず目を通します。

皆さんからの声を参考に、このコインレールを今後どうしていくのか考えていきます。